一枚の水墨画

机の前に、一枚の水墨画を掛けている。雪村周継の風濤図だ。もちろん複製である。本物は野村美術館にあり、重要文化財に指定されている。雪村は戦国時代が始まろうとする室町末期に活躍した画僧である。

この風濤図は、帆船にとって最高度の緊張状態を表現している。
描かれている帆船はブロードリーチの強風を受けて、セールはぎりぎりまで、リーフされている。クルーもヘルムスマンも全て風上側にいる。リーショアとなる風下側の岬に描かれた木々の梢は、風向と強風を示している。岬に打ち付ける波頭は、このリーショアを乗り越えることに失敗すれば、帆船がどのような運命となるかを暗示しているかのようだ。
そしてこのリーショアさえ乗り切れば、その向こうには少しは安全な海域が広がっているかもしれない、そんな希望も抱かせる。

雪村はおそらく、帆船の乗り方を何らかの形で知っていたに違いないと考えてよいだろう。

図から甦るぎりぎりの緊張感、それはまさにヨットの醍醐味と相通じるのではないだろうか。絶体絶命のピンチに遭遇した時に、ヨットの技量も人間の度量も試されることになるのだ。

人生は危険に満ちている。生きていることが、すでに危険性を内包しているのだから、安全なことばかり求めていては、つまらない人生となろう。そんなことを、この風濤図を見るたびに考える。

 

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