海上保安庁に救助されて、損害賠償を請求
「世界一周目指したヨットの男性を救助 台風で航行不能に」
2010年10月31日09時頃、海上保安庁の巡視船は、台風14号がまだ関東沖を通過中であるにもかかわらず、嵐の中を出動して、八丈島沖で遭難したヨットを救助した。その勇気と高い救助技術は、賞賛に値する。遭難ヨットの現在位置を割り出すだけでも、容易ではなかったであろう。
2010年9月7日には尖閣諸島で、海上保安庁の巡視船が中国漁船に体当たりされた事件があった。その記憶がまだ生々しかったときだ。そのような時に、たとえ対立する相手側国民であっても、嵐の中を救助に赴いた海上保安庁の真摯な行動は、実に誇らしくおもう。
しかし2012年4月17日に報道された次の記事を知り、驚いた。
救助されたのに、賠償求め国提訴
ヨットで世界一周航海中に横浜海上保安部に救助された中国人男性・劉俊成さんが「救助作業でヨットのマストが損傷した」として、国に約760万円の損害賠償を求める訴訟を16日までに起こしたことが分かった。
男性側代理人の弁護士によると、同日開かれた第1回口頭弁論で国は請求棄却を求めた。
訴状によると、男性は2009年10月、中国を出発。翌年10月、東京・八丈島の南約200キロを航海中にエンジントラブルで救助されたが、えい航作業中にヨットと海保の船が風や波の影響で近づき衝突。マストが折れるなどした。
男性側は、船が風に流されたならば、作業を中断すべきで、損傷したのは海保の過失だ、などと主張しているという。
理解しがたい責任転嫁
海上保安庁へ救助を求めたときの状況は、ヨットのマストが折れたのではない、ラダー(舵)が壊れたのでもない、沈没しそうな状況でもない。従って生命に危険が迫ったとは、とうてい言えない状況だ。
当時の報道によると、ロープが切れて航行不能になったとのことだ。ロープが切れても、エンジンが壊れても、マストが折れても。ヨットは航行不能とはならない。しかしスキッパー(艇長)が対処するための技術と装備を持っていないときは、アクシデントに直面すると、ただ途方にくれるだけである。
この事件の原因は、スキッパーが未熟であったためにパニックに陥入り、冷静な判断ができず、SOSを求めたのところにある。大波の中で大型船へ近接すれば、揺れるヨットのマストが大型船の舷側へ当たることは、容易に予測できる。マストが折れた原因は、SOSを求めた自分自身にあるのだ。
人命を救助してもらい、ヨットを八丈島まで曳航してもらった事に、十分感謝するべきではないだろうか。世界一周を断念しなければならなかった理由は、スキッパーの未熟さにあるのは明らかだ。海上保安庁に責任転嫁し、賠償を求めるのは全く理解しがたい。